きっとマジョリティになれないお前たちに告げる〜グレッグ・イーガン『繭』(祈りの海 収録)ネタバレなしレビュー〜

タイトルが『輪るピングドラム』のパクリなのは言うまでもない。

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)

今日書くのはグレッグ・イーガン短編集『祈りの海』に収録されている『繭』。
短編ゆえに、ネタバレなしでこの作品の魅力を説明するのは難しいのだが、それでも書いてみようと思う。

グレッグ・イーガンは現代で最も有名なSF作家。
物理・数学のふんだんな知識をもとに、『アイデンティティとは何か? 自分が自分であるとはどういう事か?』
を問う作品を多く書く作家だ。
特に短編の切れ味に定評がある。一つのテーマに、緻密で皮肉な設定をもって切り込んでいく手法が人気だ。

『祈りの海』もまた、刃のような短編を集めた短編集だが、その中で『繭』を選んだ理由が一つある。
これは、生きづらくてしょうがないマイノリティにぜひ読んでほしい短編なのだ。

『繭』のストーリーはこう始まる。
人間の胎盤の遺伝子を組換えることで、胎児をあらゆる汚染物質から守る胎盤=『繭』を作る研究をしていた研究所。それが何者かに爆破された。
主人公はその事件の捜査を引き受けるが、犯人探しに難航する。ライバル企業でもない。テロ組織でもない。第一、赤子を汚染物質から守ることに反対する理由がどこにあるのか?
主人公は研究所関係者をしらみつぶしに調べ、数年前に研究所から解雇されたある研究者にたどりつく。
その研究者が語る、ある事情とは―――?

上のあらすじでは伏せたが、『繭』の主人公はある種のマイノリティだ。それがこの物語の需要なキーとなる。
しかしこの話は、彼が属する種類のマイノリティだけに響く話ではない。
自分がマイノリティである自覚がある人間たち全てに響く話だ。

きっとマジョリティになれない自覚があるそこのあなた。ぜひこの『繭』を読んでみてほしい。
そして、ラストを読み終えてから考えてみてほしい。
あなたなら、どうする?